ジストロフィン遺伝子とその異常について

皆さんはジストロフィン遺伝子に関して何か知っているでしょうか。一度は耳にしたことがあると思います。ただ、ジストロフィン遺伝子と筋ジストロフィーがごちゃ混ぜになって覚えている人も多いと思います。

この記事を読んでいるということは、きっとジストロフィン遺伝子に興味を持っているのだと思います。それでは詳しく考えていきましょう。

ジストロフィン遺伝子とは

ジストロフィン遺伝子というと、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。筋ジストロフィーを引き起こす遺伝子だという風にかんちがいされている方もいるのではないでしょうか。実際のところ、ジストロフィン遺伝子は私たち人間に本来あるはずの遺伝子であって、それが欠損してしまうと体に異変が出てくる。というイメージを持つことがまずは大切です。

残念ながら、現在は有効な治療法はなく、遺伝子治療が応用できないかと専門家たちが模索中です。ジストロフィンは筋肉の細胞膜の内側に存在して、細胞膜を支える役割を果たしています。ジストロフィンに異常がおこると、ジストロフィン異常症とよばれます。ジストロフィノパチーとよばれることもあります。この遺伝子は1988年に発見されました。最近耳にすることの多くなったデュシェンヌ型筋ジストロフィーやベッカー型筋ジストロフィーはこの遺伝子の異常によって起こると考えられています。

ジストロフィーと名前のつく疾患はほかにも先天性筋ジストロフィーや肢体型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋硬直性ジストロフィーなどがありますが、これらはジストロフィン遺伝子の異常ではありません。そもそも筋ジストロフィーは骨格筋の壊死や再生を主病変とする遺伝性疾患なのでジストロフィン遺伝子以外の他の遺伝子異常が原因のものも多いです。先天性筋ジストロフィーは遺伝形式も常染色体劣性遺伝で、細胞膜の外にある基底膜とその結合に関連するタンパク質や糖鎖の異常です。
肢体型筋ジストロフィーはTTID,LMNA,CAV3,CAPN3,DYSF,SGCGなどの細胞膜や細胞質のさまざまなタンパクの異常が原因です。顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーは第4染色体長腕末端(4q35)の異常です。筋細胞で、ジストロフィンは細胞膜の内側にありますが、一様ではなく、コスタメアの中でもI帯の近くに多く広がっています。ジストロフィンのN末端がF-アクチンと結合し、この結合により収縮した蛋白が細胞膜と結合する構造の一部をつくっています。

ジストロフィンのC端は俗にいうジストロフィン結合蛋白複合体(dystrophin associated protein complex)に結合しています。この結合により細胞膜貫通蛋白と基底膜支持蛋白が関わってくる、 dystrophin axis をつくります。 dystrophin axis 都いう構造は、筋細胞表面の形状を保ちつつ保護をし、収縮と弛緩によって力を発生させてこれを骨、関節に効率的に伝搬するといった筋細胞もともとの働きに大切な役割を果たしていると言えます。それでは、同じジストロフィン遺伝子であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィーは変異的には何が違うのでしょうか。

そもそも遺伝子には A, T,G,Cの4種類の塩基を持つDNAが連なった2重らせんの形で存在しています。どちらもフレームシフト説が関わっているとされていて、遺伝子欠損が起こる場合、欠損する塩基の数が3の倍数であれば欠損部分以降のアミノ酸配列は正常になります。3の倍数以外の欠損による停止コドンでジストロフィンタンパクが合成されないのがデュシェンヌ型筋ジストロフィーでジストロフィンタンパクが短縮するのがベッカー型筋ジストロフィーというイメージを持ってもらうとわかりやすいと思います。

遺伝子変異にはミスセンス変異、ナンセンス変異などがあります。ミスセンス変異とは遺伝子変異により、アミノ酸の配列の一部が置換、欠失、重複して間違ったタンパク質が作られることです。ナンセンス変異とはタンパク質の合成そのものが中止になっている変異のことです。

先ほど述べたデュシェンヌ型筋ジストロフィーやベッカー型筋ジストロフィーは、それぞれこの変異が原因となっています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子にナンセンス変異が起こっていて、ベッカー型筋ジストロフィーはミスセンス変異が起こっています。つまり、デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子が完全に欠損していて、ベッカー型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子が一部分が残存しているということになります。

ちなみにジストロフィン遺伝子はX染色体短腕Xp21.2に存在します。遺伝子変異が起きる過程にもさまざまなステップがあり、まず①遺伝子変異がおこり、②タンパク質の機能異常③細胞機能の障害④筋肉の壊死⑤筋肉量の減少、繊維化、脂肪変性⑥筋力低下⑦各種機能障害(嚥下機能の低下、運動機能障害、呼吸筋機能低下など全身の筋力低下があらわれてくる)と7つの段階に分けることができます。

次にデュシェンヌ型筋ジストロフィーやベッカー型筋ジストロフィーの違いを見ていきましょう。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー/ベッカー型筋ジストロフィーについて(症状など)

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは筋ジストロフィーの中でもっとも頻度が高く、X染色体劣性遺伝の遺伝形式をとるので男児に発生します。頻度としては3000人から3500人に1人程度の割合です。症状としては筋力低下症状がメインです。この疾患ではガワーズ徴候が見られるのも特徴的です。

登坂性起立とも呼ばれ、しゃがんだ状態から患児を立ち上がらせたときに手を床だけではなく膝の上について、徐々にゆっくりと膝の上についた手を支えにしながら起き上がるのがガワーズ徴候です。病気の経過としては3歳ごろに発症して10歳で歩行が難しくなってきて、30歳前後で呼吸筋などの臓器の筋力が低下してきて亡くなる病気です。筋萎縮(見た目に筋肉が細くなる)は病気にかかり始めではあまり目立たちません。

むしろふくらはぎの太さが異常な太さなのが特徴的で、これは仮(偽)性肥大(pseudohypertrophy)と呼ばれています。この筋の肥大は肩の筋肉、頬筋、舌筋などの色々な部位でみられます。ふくらはぎの肥大はデュシェンヌ型や次に述べるベッカー型では、ほとんどの患者さんにみられる初見です。筋肥大をみること自体が他の筋ジストロフィーではまれなため、筋肥大をみた場合は医師はまずデュシェンヌ型やベッカー型を考えます。

病気が進行すると、筋萎縮は躯幹近位筋(上腕、大腿、体幹の筋)に著明にみられるようになってきます。歩行時には関節拘縮(関節が固まって関節の伸展が悪くなること)はアキレス腱の短縮が原因となる尖足だけです。しかしながら、筋肉の萎縮は股関節、膝関節など下半身にも広がりをみせます。下半身だけでなく脊柱の変形、手指拘縮、顎関節拘縮など全身で拘縮するようになります。腱反射はアキレス腱反射以外は減弱あるいは消失します。

ベッカー型筋ジストロフィーも同じような症状が出てきますが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに比べると症例によって大きく異なることもあるため一概には言えませんが、発症年齢も遅く、よりゆっくりと徐々に経過していくイメージが強いです。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー/ベッカー型筋ジストロフィーの検査

デュシェンヌ型筋ジストロフィーやベッカー型筋ジストロフィーを疑った際には、まず遺伝子検査が欠かせません。MLPA法で行い、この検査が陽性だった場合は筋生検を行うことで確定診断をします。筋生検の病理画像において、病初期の筋病理は非特異的なジストロフィー変化を示し、筋線維の大小不同、局所的な壊死・再生、硝子様変化、病末期には脂肪や結合組織の入れ替えを認める。

その後ジストロフィンテストで免疫組織化学的にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合はジストロフィンの欠損、またはベッカー型筋ジストロフィーの例では減少が見られるか否かを説明します。ジストロフィン遺伝子は巨大な遺伝子であるため、免疫組織化学的な検査の精度を上げるため、異なるドメインに対して2から3種類の抗体を使って検査すると理想ではありますが、遺伝子解析の精度が高まっている今日ではルーチン検査として必須とは言えません。

正常ではすべての筋線維の表面が染色されます。しかしながら、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんでは蛍光することがありません。これはジストロフィン遺伝子が欠損しているためです。保因者ではジストロフィンが不規則で細胞表面の一部のみに発現している線維が観察されます。異常なX染色体が産生するジストロフィンが部分的にみられます。

ジストロフィンが欠損している部分の筋核では、Lyon 現象により、正常なジストロフィン遺伝子を持つX染色体の発現が抑制されていることが多いです。しかし、欠損の程度は症例により、また部位により異なるので、ほぼ正常に発現しているからといって、保因者であることを完全には否定できないのが現状です。特に無症状の保因者ではジストロフィン欠損線維はまれです。一方、他の筋疾患で筋変性が強い場合は、ジストロフィンの染色性も消失または低下することが多いので、結果の解釈には、隣接切片の他の染色結果と対比するなどして、慎重を期す必要があります。ユートロフィンで染色すると、ジストロフィン欠損部位に発現していることが多いです。

母や女性の同胞や親族に関わる保因者診断は、診察、血清CK活性、筋電図、遺伝子解析やジストロフィンテストなどで、かなりの精度で可能ですが、実施するにあたっては、倫理的配慮が必要なので、患者さんのプライバシーに配慮することはもちろん欠かせません。先ほどご説明した通りジストロフィン遺伝子の異常症はX連鎖性遺伝です。発端者の同胞に対するリスクは母である保因者に依存します。保因者女性は各妊娠においてDMD遺伝子の変異を50%の確率で受け渡す可能性があり、変異を受け継いだ息子は患者、変異を受け継いだ娘は保因者となります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男性患者は生殖可能ではないが、ベッカー型筋ジストロフィーおよびデュシェンヌ型筋ジストロフィー関連拡張型心筋症の男性患者は生殖可能です。その娘は保因者であるが、息子であればその父親のDMD遺伝子の変異を受け継ぐことはありません。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーが家族内で確認あるいは遺伝情報に関連したマーカーで特定されていれば、リスクのある妊娠に対して出生前診断は可能です。そのため、遺伝カウンセリングを基本的には対症療法しかないので助けることはできない病気になっています。遺伝子治療については現段階では保険適応になっていませんが、現在考えられているのはエクソンスキッピングやリードスルーという遺伝子の治療です。

エクソン単位の欠失、重複のせいで3で割り切れない数の変異が起きている患者さんの場合は隣接するエクソンも読み飛ばして3で割り切れる変異にすることで、ジストロフィン遺伝子が欠損している患者さんに対してジストロフィン遺伝子を発現できるようになるのではないかと考えられています。リードスルーとは文字通り読み飛ばすという意味で、薬剤の中には一定の割合でナンセンス変異を読み飛ばすものが存在しています。これらでデュシェンヌ型筋ジストロフィーを根治させることはなかなかに難しいとは思いますが、より進行の遅いベッカー型筋ジストロフィーにすることで患者さんが少しでも長く生きられるようにと研究が進んでいます。

出生前診断について

出生前診断は、ジストロフィン遺伝子変異が家族メンバーの1人で確認されていれば、あるいは連鎖が確立されていれば、保因者の妊娠に対して可能となっています。通常の手順は、妊娠10-12週頃からできる絨毛膜絨毛サンプリング(CVS)、または、妊娠15-18週の時に検査が可能な羊水穿刺から得られる細胞から性染色体を同定するために核型もしくは特殊な検査により胎児の性を決定できます。核型が46、XYであった場合は、胎児の細胞から抽出したDNAを使ってもうすでにわかっている病因となる遺伝子変異の分析や確立している連鎖解析が可能です。

参考文献

  • ジストロフィン異常症(Dystrophinopathies)[Duchenne Muscular Dystrophy (DMD, Pseudohypertrophic Muscular Dystrophy);Becker Muscular Dystrophy (BMD);DMD-Related Dilated Cardiomyopathy]
  • Gene Review著者:Basil T Darass, MD; Bruce R Korf, MD, PhD;David K Urion, MD

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