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新型出生前検査と中絶に関する問題点

はじめに

新型出生前検査は安全性、正確性ともに高い水準を示し2010年代に世界的に広まりを見せましたが、胎児がダウン症などの先天性の染色体疾患を持っているかどうかがわかるというメリットがある一方、それとは別にある問題点も浮き彫りになってきました。

それは出生前検査を受けた夫婦は、そのほとんどが検査後に胎児がダウン症だと判明した際に中絶を選択していると言う「生命の選択」の問題です。

今回の記事ではそんなNIPTがもたらす倫理的な問題に関して掘り下げ、同時に日本における中絶を取り巻く環境についても言及していきます。

また、本記事ではNIPTやその結果を受けての中絶に関しては賛否どちらの立場も取りませんが、倫理的な点が考慮されないままNIPTが普及することによって懸念され得る事柄に関しては問題提起できればとも思っています。

ですので、将来的に子供を持つことを考えている、あるいはすでに妊娠をしていて出生前検査を検討していると言う方はぜひ一緒に考察を深めてみてください

日本における新型出生前検査の広まり

新型出生前検査は、日本において認定施設で検査を受けられるのは「分娩時35歳以上」という年齢制限が日本産婦人科学会によって設けられています。

また、その費用も約20万円とやや高額で、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングの受診も義務付けられているため、気軽にNIPT検査を受けられないというのが実情なのです。

そして、検査を受ける施設も日本産婦人科学会が認可した医療機関のみを推奨されているのですが、NIPTが臨床実験扱いであるためその絶対数は決して多くはありませんでした(近年NIPTを一般診療扱いにしようという政府による働きかけがあり、今後は検査できる施設も増えていく見通しです)。

しかしながら、こう言った規定には法的な拘束力がないと言う問題点もあり、学会の指導を受けない民間の診療施設が増え、それらの診療所は検査にかかる料金を比較的安く設定されており遺伝カウンセリングを行わない施設が多いと言う点が問題視されています。

「無認可=違法」という訳では決してなく(等記事では論点がずれるため認可無認可の是非は問いません)、受診後の本格的な検査結果の診断を海外の検査施設に依頼しているに過ぎないため、信頼度の高い検査機関は少し調べればすぐに見つかるというのが現状なのです。

検査結果を受けての中絶がもたらす問題点

ではこれらの何が問題なのかというと、出生前検査を受ける夫婦のほとんどが子供がダウン症を持っていた場合は中絶をするという意思を持って検査に挑んでいるという点が挙げられます。

この懸念を裏付けるように実際に2013年から2017年までに新型出生前検査を受診し「陽性」と診断された933人の妊婦の内、妊娠の継続を望んだのは26人とわずか3%だったそうです。

もちろん、中絶に至った経緯に様々な葛藤や事情があるでしょうし、それらは他人がとやかく言うことではないとは思います。

しかし、中絶に関するリスクや倫理的な側面に関する議論が広まらないまま、カウンセリング行為が軽視され新型出生前検査の利用率が上がることには危機感を抱くべきではないでしょうか。

こう言った懸念を抱く人の中には「みんながやっているから」とダウン症を持つことが判明した胎児を堕すことになんの罪悪感も抱かない風潮が広がることです。

そのような感情は「優性遺伝子至上主義的な思想」とも言え、その考えが広まってしまうと現代を生きている障害を持った人々に対する差別感情の高まりにも繋がってしまいます。

そんな風に我々の感情や思考が気づかないうちに差別的な方向に進んでいくのを止めるためにも、診療所への学会によるきちんとした指導やカウンセリングの受診は必要不可欠な事柄のように思えてなりません。

また宗教的な理由からも、中絶の是非を問う議論が盛んな海外に比べ、日本においてはその辺りの倫理的な話題が軽視されているように感じます。

マクロな視点で見た日本の中絶に関する現状

ここで一旦視点を変え、世界から見た日本における中絶を取り巻く状況に関して掘り下げていきましょう。

実は残念なことに日本は「中絶後進国」と言われていて、医療技術の高さに反して中絶を取り巻く状況に関してはインフラが整っていないのが現状です。

日本において中絶は1948年に制定された旧優生保護法によって世界諸国に先立って事実上の合法化がなされましたが、その後70年間はほとんど法的な整備が実質行われていません。

WHOは2012年に「安全な中絶に関するガイドライン」を発行したのですが、この中で推奨されている傾向中絶薬は認可されておらず、安全性の高い真空吸引法はそのコストの高さから十分に普及しているとは言えないのです。

では、現在日本で行われている主な中絶方法はどうなのかと言いますと、これは掻爬術と呼ばれ妊婦にかかるリスクも決して無視できないレベルのものであるため、その点がWHOからも指摘されています。

また、日本では出生前検査などによって判明した胎児の状態を踏まえた中絶行為は法的には正確に認められていません。

その場合は妊婦の健康被害を訴えた届け出を出すことによって中絶の実施がなされており、また夫の同意も必要になりますので夫からのDVを受けていたりした場合は手続きが滞ってしまうと言う問題点も発生しています。

これらの事実を考慮すると、日本では中絶行為そのものが比較的リスキーであると言うことができますので、出産に関する決断をする際にはその点に関しても十分に知っておく必要があります。

おわりに

ここまで見てきたように、出生前検査を行うことによって胎児がダウン症を持って産まれて来ることが判明し、結果として本来ならば出産していた家庭で中絶が行われる事例が発生しています。

先ほども言及したように子供を育てるのにかかる経済的・時間的な負担を負い切れるかどうかと言った点は個々人で異なりますし、中絶を決断するに至った事情も様々ありますので、出生前検査の結果を受けての中絶そのものを否定することはできません。

しかしながら、もし中絶をするのであれば健康な赤ん坊を望む感情と中絶に対する罪悪感に折り合いをつけた上で行われるべきではないでしょうか。

とは言え、出産、中絶とどのような結論を選ぶにしろ「こんなはずではなかった」と言わないためにも我が子に関する情報を正確に把握することは大切なことです。

そのためにも安全性・正確性ともに高いNIPT検査を筆者は推奨いたしますが、それと同時に「生命の選別」をすることが当たり前な社会になっていかないことも強く願っています。

また、2011年の研究では、ダウン症候群の人の99%が自分の生活に満足しており、ダウン症候群の子供の親の79%が子供のおかげで人生に対する見通しがよりポジティブだと感じていることがわかりました。

このデータは、子供のダウン症が発覚したとしても、決して悲観的になる必要はないと言うことを示唆しています。

つまり、専門の遺伝カウンセラーのカウンセリングを受けるだけでなく、実際にダウン症の子供を出産した夫婦などの声に耳を傾けてみるのもより良い選択をする上での助けになるのではないでしょうか。

参考文献

日本が人工妊娠中絶の「後進国」であるあるという悲しい事実.https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64995(参照 2020-2-11)

新型出生前診断拡大を前に必要な支援とは。どんな「選択」も尊重する体制を.
https://www.businessinsider.jp/post-189637(参照 2020-2-11)

ダウン症「みんな中絶しているから自分も」…新型出生前診断の拡大がはらむ危険と怖さ.
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20181214-OYTET50033/(参照 2020-02-11)

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