niPGT-A(非侵襲的着床前診断)とは~胚にダメージを与えない着床前検査

着床前検査(PGT)は、受精卵に穴を開けて細胞を採取するため、胚にダメージを与えてしまう懸念があります。そこで開発されたのが、胚にダメージを与えない非侵襲的着床前検査( niPGT)です。

着床前検査(Preimplantation Genetic Testing: PGT)は、受精卵(胚)の移植前に細胞の一部を採取して染色体や遺伝子の異常を調べる妊娠前に行う検査です。しかし、この検査には受精卵に穴を開けて細胞を採取することが必要で、その際に胚にダメージを与えてしまう懸念があります。そこで開発されたのが、細胞の外に存在するセルフリーDNAを利用した非侵襲的着床前検査(non-invasive preimplantation genetic testing: niPGT)です。ここでは、従来のPGTと比較しつつ、新しい着床前検査であるniPGTについて解説していきます。

着床前検査とは

着床前検査(Preimplantation Genetic Testing: PGT)とは、体外受精で得られた受精卵(胚)の移植前に細胞の一部を採取して染色体や遺伝子の異常を調べる妊娠前に行う検査です。検査の結果、正常な胚を子宮に移植することで流産の確率を下げ、妊娠成功率を上げることが期待できます。
 欧米では流産を防ぐ目的で以前より実施されていましたが、日本でも日本産婦人科学会の主導のもと、反復着床障害、反復流産の方で選定基準を満たした方を対象に臨床研究が行われています。
 着床前検査には染色体の数を調べるPGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy)、染色体の構造異常を調べるPGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements)、特定の遺伝子の異常がないかを調べるPGT-M(Preimplantation Genetic Testing for Monogenic/single gene defects)などいくつかの種類があります。

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着床前検査の方法

着床前検査では、「胚生検」と言って、体外受精を行い胚盤胞まで成長した段階で栄養外胚葉細胞の一部(5〜10細胞程度)を採取します。実際には顕微鏡で胚を見ながら、胚の周りの殻のような部分(透明帯)に穴を開け、細いピペットを用いて細胞を取り出します。 採取した細胞は、次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer: NGS)と呼ばれる最先端の機器により迅速かつ網羅的に遺伝子配列の解析が行われます。残った胚盤胞は一旦凍結保存されて移植に使用されます。このような検査の流れは着床前検査の種類によらず同様になります。

PGT-A

PGT-Aは染色体の数を調べる検査で、ダウン症の原因となる21トリソミー、18トリソミーなどの染色体数の異常が原因で起こる疾患の有無を知ることができます。これらの染色体異常は比較的頻度が多いため、PGT-Aは最も多く行われている遺伝子検査となります。

PGT-SR

PGT-SRは、PGT-Aよりもう少し細かく染色体を調べて染色体の構造異常を知ることができる検査です。逆位や相互転座、ロバートソン転座などの染色体構造異常を検出することができます。

PGT-M

染色体はいくつもの遺伝子が集まった構造物で、前述のPGT-AやPGT-SRは染色体の異常を調べる検査です。それに対してPGT-Mは染色体の中に存在する特定の遺伝子の異常を調べる検査で、その遺伝子異常が原因で発症する遺伝性疾患の有無を知ることができます。嚢胞性線維症などの常染色体劣性疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどのX連鎖性疾患といった遺伝性疾患の原因となる特定の遺伝子の異常を検出することができます。

着床前検査のデメリット

PGTで考えられる技術的なデメリットの一つは、「胚生検」による胚へのダメージです。現時点ではこの技術が胎児に悪影響を及ぼすといった報告はありませんが、前述のとおり検査をするためには受精卵に穴を開けて細胞を採取することが必要で、その際に胚にダメージを与えてしまう懸念があります。

また、「胚生検」で得られる細胞は胚を形成する一部の細胞なので、胚の遺伝子パターンがモザイク状であった場合に、検査した細胞と検査せずに残った細胞の遺伝子情報が異なる可能性があります。このように、胚全体の遺伝子情報を得ることが難しいという点もデメリットと考えられています。

非侵襲的着床前検査(non-invasive PGT: niPGT)

着床前検査で最も懸念されるデメリットである、「胚生検」に伴う胚へのダメージを克服するために開発された新しい技術が非侵襲的着床前検査(non-invasive preimplantation genetic testing: niPGT)です。「侵襲的」とは難しい用語ですが、「胚を傷つけること」を意味し、受精卵に穴を開けて細胞を採取する行為のことを指します。「非侵襲的」とは胚を傷つけずに遺伝子検査を行うことを意味します。では、どのようにしてDNAを採取して遺伝子を調べることができるのでしょうか?

遺伝情報を構成するDNAは基本的には細胞内の核に存在していますが、微量なDNAが細胞の外に漏れ出していることが知られています。この細胞外にあるDNAのことを、cell-free DNA(セルフリーDNA)と呼びます。niPGTでは、細胞の外に漏れ出したセルフリーDNAを利用することで、非侵襲的に遺伝子検査を行います。

セルフリーDNAの採取方法は主に2つ開発されており、一つは胚盤胞内の胞胚腔に満たされた胞胚腔液を採取して液中に含まれる胚由来のDNAを採取する方法、もう一つは胚を培養した培養液の中に含まれるDNAを採取する方法です。採取されたDNAは従来のPGTと同様に次世代シークエンサーで遺伝子配列が解析されます。

niPGTのメリット

niPGTの最も大きなメリットは文字通り「非侵襲的」であることです。従来のPGTと異なり、胚から細胞を採取する必要がないので胚、ひいては胎児に対する影響が低いと考えられます。また、培養液を採取するだけで検査が可能なので、高度な技術を必要としないという点もメリットの一つです。

niPGTのデメリット

以上のように、niPGTは従来のPGTのデメリットを克服した画期的な検査法ですが、まだ新しい検査で発展途上の段階であるため、いくつかの問題点が指摘されています。

一つは、細胞の外に漏れ出るセルフリーDNAの量は微量であるため、従来のPGTに比較して検査結果が安定せず信頼性が低い点です。従来のPGTと一致する確率は50〜90%程度とばらつきが大きいことがわかっています。

胞胚腔からセルフリーDNAを採取する場合は、胚盤胞を針で刺して液を吸ってくる必要があるため、少ないながら胚を傷つける可能性があります。

その他、培養液からセルフリーDNAを採取する場合は胚以外の細胞に由来したDNAも含まれる可能性があり、これも検査結果が不安定になる理由の一つと考えられています。

以上のように問題点はありますが、遺伝子解析の技術は日進月歩で進んでおり近い将来にこれらの課題が克服されて、より実用的な検査になることが期待されています。

参考文献

  • 着床前診断のはなし
    http://sph.med.kyoto-u.ac.jp/gccrc/pdf/090918_a1_cyakusyoumae.pdf
  • CooperGenomics
    https://fertility.coopersurgical.com/ja/home-japan/
  • Leaver M, Wells D. Non-invasive preimplantation genetic testing (niPGT): the next revolution in reproductive genetics? Hum Reprod Update. 2020 Jan 1;26(1):16-42.
    https://academic.oup.com/humupd/article/26/1/16/5643748

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