ダウン症候群関連

Wolf-Hirschhorn症候群とは?

Wolf-Hirschhorn症候群(4p deletion syndrome、WHS)を知っていますか?この病気は難病に指定されている染色体異常症です。頻度は50000人に1人という非常にまれな疾患です。今回はこの病気を知ろうと思っている皆さんのために病気の概要、症状、診断から治療についてわかりやすく説明していこうと思います。

Wolf-Hirschhorn症候群とはどんな病気なのか

病気の概要

Wolf-Hirschhorn症候群は、4番染色体短腕遠位部の欠失(4p16を含む)によって引き起こされる希少染色体異常症です。4p deletion syndrome、4p-syndrome WHSなどともよばれています。欠損の大きさは人によって異なるが、大きな欠損があればあるほど深刻な精神発達遅滞や身体障害を引き起こすことがわかっています。遺伝子ではNSD2、LETM1、MSX1の欠損が多い。これらの遺伝子の特定の役割はまだはっきりとはわかっていません。しかしこれらの遺伝子が発達の過程において重要な役割を果たすことがわかってきました。現在、 NSD2遺伝子の欠損は特徴的な顔貌や発達遅滞を引き起こすのではないかと言われています。 LETM1遺伝子の欠損はけいれん発作やその他の異常な電気活動に関係していると考えられています。MSX1遺伝子の欠損は歯牙形成の異常や口唇裂や口蓋裂の原因となっている可能性が示唆されています。現在科学者たちは4番染色体の短腕の末端にある追加の遺伝子について調査中です。

疾患の頻度

Wolf-Hirschhorn症候群の頻度は50000人に1人の割合であるとされており難病です。男女比は1:2で、男性よりも女性にやや多い疾患です。

遺伝形式について

Wolf-Hirschhorn症候群の全症例の85〜90%は遺伝性ではありません。なぜかというと生殖細胞の形成過程または初期胚発生中にランダムで起こる染色体の欠失が原因だからです。より複雑な染色体再構成も発生する可能性はあるが、家族歴のないWolf-Hirschhorn症候群ではランダムな染色体変化が起こっている。Wolf-Hirschhorn症候群の一部の人は輪状染色体を持っています。輪状染色体とは染色体が2か所で壊れて、各々の染色体の端が融合する際に作られる染色体です。その過程で、染色体の末端の遺伝子は失われるので様々な障害が起こるのです。

Wolf-Hirschhorn症候群の中には欠損部分を持つ第4染色体のコピーを受け継ぐ場合があります。その場合は、両親の片方が第4染色体と他の染色体の間で染色体再構成をしています。この状態を平衡転座と呼ばれています。平衡転座はバランスの取れた転座なので遺伝物質が新しく増えたり減ったりすることはありません。よって通常の場合では健康上の問題を引き起こすことはありません。ただし、次の世代に引き継がれるときに平衡転座のバランスが崩れて不均衡になることはありえます。この場合、両親が発症していないのに生まれてきた子供がWolf-Hirschhorn症候群になることがあります。

Wolf-Hirschhorn 症候群では実際にはどんな症状が出るの?

前額部から鼻の部分にかけて幅広く隆起する顔貌(Greek-Warrior Appearance)、筋緊張低下、精神発達遅滞、胎児期から始まる成長障害、てんかん、摂食障害、小頭症、眉間突出、人中短縮、先天性心疾患、聴覚障害などの多岐にわたる症状がみられます。特にてんかん発作は1歳までのほぼ100%のWolf-Hirschhorn症候群の乳幼児に起こるとされており、QOLを高めるためはてんかんを起こさないことが重要だとされています。てんかん発作のパターンとしては間代性、強直性、強直間代性などとさまざまです。これらのてんかんは発熱が引き金になっているとされています。この疾患では、成長障害と精神遅滞のどちらも起こります。具体的にはたんぱくやエネルギーをきちんと摂取していても体重増加不良になり、子宮内発育不全になります。Wolf-Hirschhorn症候群では重度の精神発達遅滞が起こる。一般的には話ができずにコミュニケーション能力が欠如すると考えられています。しかし近年特別な状況において2音節を話すことのできる症例も見られています。

Wolf-Hirschhorn症候群の診断方法はあるの?

診断するにあたって、まずは通常の染色体検査を施行します。これは大きな欠失や転座などがないかを確認するために行います。また、Wolf- Hirschorn症候群を診断するためには遺伝子学的検査が有用です。 FISH法によるサブテロメア領域の欠失のスクリーニングが感度と特異度ともに高いです。転座例の大多数はサブテロメア領域に関わっています。このことから転座例の場合は、サブテロメア領域のスクリーニングをすることで転座に関連するもう片方の染色体も同定することができます。FISH法のほかにはアレイCGHも使う場合があります。従来の細胞遺伝子学的検査を用いる場合には、4pに付加部分が付着していることを見つけることが必要となります。その場合は同定のためにSKY法やM−FISH法が使われます。

Wolf-Hirschhorn症候群の治療法はどんなことをするの?

Wolf-Hirschhorn症候群は先天性の遺伝子異常によって起こる病気なので根治的治療は存在しません。そのため症状に対して個別の治療をしていくことが大切です。

ここからはWolf-Hirschhorn症候群に代表的な疾患をあげて、個々の治療法について見ていこうと思います。

精神発達遅滞

運動発達、認知、言語、社会性を伸ばす訓練が有用です。さらには個人を適切に評価してリハビリテーションプログラムを組むことが大切です。以前は身振りを多用すると言葉が出てくるのがますます遅くなるのではないかという懸念があったが、現在では身振りによって児のコミュニケーション意欲が高まることがわかってきました。そのため身振りなどを積極的に使っていくほうが良いです。よって早期からの訓練やその後の環境選択が大切です。1歳未満の乳児を除いて全員が身体障害者手帳や療育手帳を取得可能なのでそれらを使って適切なサービスを得ることも重要であるとされています。Wolf-Hirschhorn症候群の患児は合併症によっては特別児童扶養手当や訪問サービスなどの福祉支援が得られるので、必要に応じて使っていくべきだと考えます。

摂食障害

摂食訓練を行います。

口蓋裂のない児や外科手術前の児に対してはHaberman Feederなどのような摂食器具を利用できます。嚥下能力の弱い児に対しては経管栄養を行うこともあります。

胃食道逆流症を合併している場合は、噴門部縮小術、胃瘻造設を行います。

てんかん

 Wolf- Hirschhorn症候群の児ではてんかんをいかにコントロールするかが重要な課題です。一般的には抗てんかん薬のバルプロ酸やジアゼパムを使うことが多いですが、近年臭化ナトリウムの内服が有効であることがわかってきました。脳波が正常でなくとも、明らかなてんかん発作を5年以上認めない場合は抗てんかん薬を中止しても構わないことになっています。

その他の先天奇形や先天性心疾患や聴力障害に対しては個別に状況を判断して外科手術を行います。

参考文献

  • 北川かほる、岡崎美智子、障害児者の家族交流会のセルフヘルプ機能に関する検討 日赤看護学会誌
  • NIH  U.S. National Library of Medicine /Wolf-Hirschhorn syndrome

https://ghr.nlm.nih.gov/condition/wolf-hirschhorn-syndrome

関連記事

  1. 母親の年齢および妊娠週数との関係における21、18および13トリソミー…

  2. 最も割合の高い染色体異常―ダウン症児を取り巻く環境について

  3. ダウン症の人らの生活実態

  4. 悲しみの末の決断

    NIPTと今後の決断、「命の選別」で揺れる親心と医師の葛藤とは

  5. エコーで見えるダウン症の特徴とは?

  6. NIPTで早期発見できる性染色体異常「クラインフェルター症候群」

PAGE TOP